数日前、棚の上にある古いMacintoshSE30が目に留まりました。このMacintoshはグラフィソフトジャパン創設時からあるものです。
実はこのMacは、私が東工大の学生だった時に初めて買ったコンピューターです。当時学生の私にとってこれはかなり大きな投資でした。受けていた奨学金の3ヶ月分もしたのです(結局、ローンで購入しました)。当時の物価が違うとはいえ、これが今まで買ったコンピューターの中で一番高いものとなりました。それでも、コンピューターを使うことを初めから決心していましたし、実際この買い物のおかげで人生が変わったと言って過言ではありません。このコンピューターでまずMacWriteとHyperCardを習得しましたが、次第に建築ソフトが欲しくなりました。この分野に詳しいオーストリア人の留学生に相談したところ、「MiniCADというソフトがあるがあまり満足するものではない」「AutoCADもあるが(*)まだ二次元のみ」「一番良いソフトはもちろん三次元の、建築用に作られているArchiCADである」ということでした。実はArchiCADはハンガリーで開発されており、残念なことに値段がとても高いということも聞きました。このような状況でしたので、その時点ではHyperCardを習得することで満足していました。数ヶ月後、休暇でふるさとのハンガリーへ一時帰国しました。大学の旧友に、ブダペストでばったり会いました。そこで「今は東京にいて、マックを持っているのか、それでは僕の仕事場にきてごらん、面白いものを見せてあげるから」と誘われ、その友人のオフィスに行きました。これがグラフィソフトオフィスを訪れた最初の機会となりました。当時は狭い地下室に15人のスタッフが重なるようにして熱心に仕事をしていました。
そこで見たものは、非常に驚かされるものでした。それはArchiCAD 3.5で、自分が持っているマシンと同様のコンピューターでリアルな3Dが動いていたのです。私はソフトの体験版を貰って家に帰りました。体験版では保存と印刷の以外、全てが商用版と同じ機能でした。このソフトがもらえて嬉しくて仕方がなかったのを今でも覚えています。
日本に戻ってから、すぐにこのソフトをインストールしました。基本的な機能はすぐに覚えましたが、やはり保存と印刷ができないのでなかなか利用できないと感じました。無償のソフトなので文句は言えませんが、学校の課題をCADで作成することをどうしてもあきらめられなかったのです。
そこで、ArchiCADで入力した簡単なマスモデルから透視図を作成し、それを手書きの3D図面の下図として利用することを考えました。「でもどうすれば画像を紙に写せるのか?」当時はまだプリントスクリーン機能はありませんでしたので、「アナログ」な方法で行うしかありませんでした。トレーシングペーパーを取り出し、SE30の小さなスクリーンの上に両面テープで貼付けたのです。そして、スクリーン上の画像を手描きで写し取りました。この方法で透視図の輪郭を写し取ってから詳細を手で描き込むことは難しくはありませんでした。大学の先生にはその結果を非常に気に入っていただきました。こうして、システムの限界を乗り超え、CADを使用したプロジェクトを完成させたと自分でも満足しました。
さて、この話の教訓は「トレーシングペーパーを使いましょう」ということではなく、限られた状況の中でも有効な手段を見つけられる、ということです。ArchiCAD(または他のソフト)を使う上で「正しい方法」は一つだけではありません。保守的になる必要はないのです。ArchiCADは、良い建築物を創るという一つの目的を達成するための道具に過ぎないのですから。
*当時は短期間でしたがAutoCADにMac版もありました。
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