2011年12月20日火曜日

ArchiCAD BIMテンプレート

ある建築家はBIMに胸が弾み、ソフトを購入しました。オフィスが数週間で革新的になると信じてトレーニングに参加し、パイロットプロジェクトを開始し、3Dから全てを提供できるようすることを願っていました。しかし、締め切りが近づくとリスクを感じ、ある一定の段階で慣れ親しんだ2D CADシステムに切り替えます。次こそは、と考え練習を続けますが... 

しかし1年後、彼のBIMソフトウェアの利用はプレゼンテーション時に使用するためのモデリングのみでした。図面は未だに以前のように2Dで作成され、スマートな解析や自動積算などを使用する様子は見られませんでした。彼は結局のところBIMは大げさに騒がれているだけだと感じました。「BIMはまだまだだよ!」と知り合いにこっそり話していました。

こんな話を聞いたことがありませんか? 私はあります。そして、この問題は私たちの競合他社だけでなく、弊社に対しての問題でもあると認めざるを得ません。(しかしArchiCADユーザーは比較的少ないと信じています)しかし、これは本当でしょうか?BIMは実用的な利用には時期尚早でしょうか?私の短い答えはノーです。しかし、 なぜそのように考える結果となったのか、より深く考える必要があります。また、いくつかBIMの成功した事例が存在している一方で、なぜ未だにそれほど多くの失敗が起こりうるのでしょうか?

まずは勇気を出して飛び込めているかどうかです。ハンガリーでは「足が届く浅瀬では歩くことに頼ってしまい、泳げるようにならない」と言います。 同様にいつまでも2Dシステムに頼っていては未知のソフトで試行錯誤することを簡単に諦めてしまい、2Dに戻り、図面を仕上げて早く家に帰ってしまいます。これでは新しい技術を身につけることはできません。深い水に飛び込んで泳がなくてはなりません。AIDEA社の話を思い出してください。たった3ヶ月で2Dを完全に削除したのです。その当時BIMは現在よりも格段に未熟でしたが、非常にタフな数週間後にはBIMシステムに自信を持ち、2度と元に戻ることをしませんでした。

2つ目は、過剰な期待です。BIMは3Dで素晴らしいプレゼン資料を作れるでしょうか? それは確実でしょう。モデルから完璧な設計図書を作成することは? もちろんです。モデルから正確な積算を作成することは? それももちろんです。日影計算、環境解析やファシリティマネージメントは? これらは全て実際に日本および世界中で活用されています。しかし、「これら全てが同じモデルでできますか?」また、特に「2、3ヶ月のトレーニングでできますか?」というように聞かれれば答えはノーです。 しかし、設計図書の整合性だけでも非常に革新的なことです。私のアドバイスは、焦らず目標を設定し、一つずつ確実に、ということです。そして結果を楽しみましょう。 
(以前の投稿 ArchiCADの正しい使い方? 参照)

3つ目はBIMのノウハウの取得の難しさです。現状では比較的小規模の企業より大規模の企業(ゼネコンや組織設計事務所)がBIMの実施を成功させている例が多く見られるでしょう。これは組織の規模が大きければ、失敗は許されないということも理由の一つだと思いますが、それ以上に、BIMを成功させるためにはBIMのワークフローを確立し、BIMのノウハウを構築することが重要だという点です。大規模なゼネコンや組織設計事務所はBIMの推進グループを立ち上げ、ノウハウを作ることができます。しかし小規模の企業にはこれを行うリソースがありません。それを実行するには週に数時間余分な時間が必要かもしれません。この点に関してBIMのメーカーは胸が詰まる思いです。私たちはユーザーの皆さんにもっとノウハウを提供すべきです。ありがたいことに、このノウハウはお客様によって作られたもので既に存在しているので、一から作り上げるのではなく、この知識を収集し、組み合わせ、わかりやすい形にドキュメント化する必要があります。

これを私たちが2012年、次に取り組まなくてはならないタスクとして私のチームに伝えました。これを「ArchiCAD BIMテンプレート」と呼んでいます。十分に準備されたBIMデータセットでリアルな3Dモデルを機能させることを可能にしたいと思います。これは現在進行中のプロジェクトで、また、BIMの技術が急速に発展している為、継続的に取り組まなくてはなりません。しかし、来年の春頃には第一段階の形として、BIMへの移行の難点を緩和するものをお見せできると思います。 

お客様、パートナーの皆様、このブログを読んで頂いている皆様が素敵なクリスマス、新年を過ごされるよう、心よりお祈りしております。

2011年11月22日火曜日

アルゴリズミックBIM


先日、イタリアの建築協会「CASARTARC」が主催するAAST インターナショナルワークショップの懇親会に参加させて頂く機会がありました。GRAPHISOFTとしてこのイベントに協賛しており、プレゼンをするよう依頼されていました。しかし、プレゼンをするのは懇親会の会場でしたので、どちらかと言えばお酒の席という雰囲気でした。こういったパーティでスピーチをするような状況で気をつけなければならないことは「簡潔に」ということでしょう。

ですので、もともと用意していたスピーチをやめ、短い挨拶と、弊社GRAPHISOFTの事業について少し述べるだけに留めました。しかし、折角用意したスピーチを無駄にしてしまうのも、もったいないので、ここに書くことにします。

以下、スピーチの内容です。

「建築家」は物事をコントロールすることが好きであるということは事実だと思います。私たちが想像することを形作ることだけではなく、それをクライアントのニーズや法令に基づき建築図書を作成します。このためには、材質や空間や形状をコントロールしなくてはなりません。従来、そのコントロールの方法は図面でした。それも膨大な図面でした。2D CADの導入はこういった意味では革新的だったとは言えません。同じ図面をコンピューターによって、より効率的に生成するというだけです。 
しかし、コンピューターはただ図面を電子化するためだけに使うより、はるかにパワフルなマシンです。建物データを直接コントロールするコンピューターソフトは80年代に既にニーズがありました。それは「バーチャルビルディング」や、「シングルビルディングモデル」のような言葉で表わされていました。現在では「BIM」や「アルゴリズミックデザイン」という概念になっていますが、基本概念は本質的には同じものです。3Dモデルを通して、建物データを直接コントロールすることです。しかし、「アルゴリズミックデザイン」と「BIM」ではフォーカスされる点が少し異なります。 
アルゴリズミックデザインの注目されるべき点は設計初期段階に建築家が考案するアルゴリズムによって建築形状がパラメトリックにコントロールすることが目的とされていることです。ライノセラスのグラスホッパーといったツールは、ユーザーが高度な数学的知識を持たずともグラフィカルにそのような建築形状を造り出すことができます。BIMの範囲はより広いものです。基本設計の枠に留まらず、建物のライフサイクル全体に及びます。さらに、BIMは設計だけに使われるものではなく、調整や様々なタイプの解析、そして当然今でも重要な2D図面の生成(少なくとも当分の間、必要となるでしょう)に使用されます。 
二つの目的が相反することなく共存することは想像に容易いです。私は将来的に「アルゴリズミックデザイン」と「BIM」が共に発展していくと考えています。BIMはアルゴリズミックデザインの生成物を包括的に受け入れます。そして、デザインにおいてポピュラーになりつつあるアルゴリズミックなアプローチはプロセス全体にわたって活用できるでしょう。 
私たちGRAPHISOFTはこれをゼロから始めるわけではありません。ArchiCADはユーザーがBIMデータのオブジェクトをパラメトリックにコントロールすることができます。しかし、この機能はすべてのオブジェクトで実装されているわけではなく、また、そのユーザーインターフェースは初心者には若干難易度が高いものです。しかし、その気になれば今でもGDLスクリプトを用いて驚くほど様々なことを、BIMデータをアルゴリズミックにコントロールすることができます。 
現在また将来のユーザーにとっても喜ばしいことは、BIMかアルゴリズミックデザインのどちらかを選ぶ必要はないということです。これら2つは1つになるものなのです。

2011年9月29日木曜日

かつてVBEと呼ばれたアプリケーション


ついに秘密が解禁されました!様々なゴシップや噂が飛び交い、長期間に及ぶ開発を経て、ついにVirtual Building ExplorerのiPad版がリリースされました!そして今回、この製品は新しい名前となり、BIM explorer略して「BIMx」となりました。


リリース直後から世界中でかなりの勢いでダウンロードされ、1日で1600のダウンロードとなりました。グラフィソフトジャパンもこの勢いに乗り、おかげさまで多くのダウンロードを獲得できました。アップル社のルールでは、リリース前のベータ版は100のみコピーすることが許されており、従って当然ながら優先順位としてそのコピーは開発者やベータテスターに​​与えられることとなりました。その結果、先週水曜日までグラフィソフトジャパンはBIMxのアプリを1つだけしか保有しておらず、そのアプリが入ったiPadでしかお客様に見せることができませんでした。弊社のスタッフのほとんどがiPadまたはiPhoneを持っているので、スタッフはリリース直後に一斉にダウンロードし、BIMx迷路にトライしました。勤務時間中にゲームをプレイするという、普段はあまりない機会でしたが、新製品をチェックする義務として行いました。



これは、VBEの新しいプラットフォームであるということだけではなく、より広く一般にBIMデータを浸透する重要なステップです。現在、BIMのコンセプトは建築家や建設関連の関係者の間で知られていますが、グラフィソフトとして私たちは、その他様々な人々がBIMデータを使用することになると信じています。現実に私たちは皆、建物と何かしらの形で関連しています。自分の家に住んでいて、土地を維持したり、単純に建物に入ることも含まれます。ですので、BIM情報により利益を得るということは多くの人に関係しています。例えば、まだ変更が可能な設計初期段階で未来の建物を体験したいと考えるクライアント、壁のどこに特定のパイプが通っているかを確認したいと考える設備管理者、またはセキュリティシステムに盲点がないかを確認したいと考えるセキュリティ会社など、まだまだあります。


Appleの革新的なデバイスによる、タブレットコンピューティングの革命は私たちにもチャンスをもたらしました。VBEをiPad/iPhoneに移植することにより、建設の専門家とその他大勢のギャップを埋めることができます。モバイル性や手頃な価格といった面もありますが、タブレットコンピューターの刺激的な魅力によるものが大きいでしょう。実際に人々はクールなものが好きで、便利なだけではなく魅力的な製品に惹かれるのです。そしてBIMxはこのニーズにかなりマッチしているのではないかと思います。


しかし、私たちは優れたビューワーの提供だけには留まりません。BIMxはさらに多くの可能性を秘めています。例えば、新居を購入しようと思っている人が、妻へiPadで新しい家のデザインを見せたら、彼女は壁の色を批判するかもしれません。これを建築家へメールで説明するよりも、iPadのアプリ上の3Dに直接メモを書いて、画面をタップしてデザイナーに送り返す方がずっと楽でわかりやすいです。または建物内の水漏れを修理する担当者が別の問題に気づいた場合、スマートフォンで写真を撮り、BIMモデルで適切な場所にそれを添付し、社内の人に送れば、すぐに必要な人を派遣することができます。まだまだ考えられますが、今のところBIMxはBIM Serverからモバイルデバイスへという1方向でのコミュニケーションのみに対応しています。 しかし、双方向のデータフローも十分に可能です。つまり、メモ、注釈、画像等の情報を直接BIMサーバーに送信するということです。近いうちにBIMxがプレゼンテーションツールからコミュニケーションプラットフォームに進化することになると考えています。


しかし、これは少し先のことになると考えていますので、それまでの間、このBIMx for iPad/iPhoneをお楽しみください!


BIMx for iPad/iPhoneはこちらから無料でダウンロードすることができます。

2011年9月7日水曜日

優秀なサポート

昨日、弊社のパートナーである大塚商会に伺いました。GRAPHISOFT本社から “たよれーる”のサポートチームに「優秀サポート賞」を授与するという喜ばしい目的でした。このチームの皆さんはここ数年、着実にサービス標準を向上させ、弊社のお客様から素晴らしい評判を頂いています。この“たよれーる”サポートチームの全てのメンバーが「ArchiCAD認定試験」にて80点以上の「ArchiCADゴールドマスター」を保持しているということを強調したいと思います。そして、そのうちの2名は90点以上を獲得しています。実は、この90点というのは並外れたスコアなのです。世界中で今年度90点以上を取得しているのは10人以下です。そして、このスコアを達成するということは、実質上全ての仕組みを理解しているということです。認定試験を作ったGRAPHISOFT本社のLaci Nagy本人でさえ、100点満点を取ることはできなかったそうです。













このニュースは、日本において「私たちがすべきこと」との相互関係として大局的に見ると非常にわかりやすいと感じました。日本のお客様の信頼を勝ち取るには、最高級のBIMソフトを提供するだけでは十分とは言えず、それに伴う最高級のサービスも提供しなくてはならないということです。BIMは複雑な技術であり、この困難な道を乗り越えていくために、建築/建設会社はそれをサポートする人がいて初めて飛躍することができるのだと思います。私はグラフィソフトジャパンがお客様第一の企業であり、製品パッケージを提供するだけではなく、必要となるノウハウも提供する企業であるという点に特に集中してきました。しかし、私たちのお客様に直接、接しているパートナー様が同じように、BIMへの移行に伴うサポート業務に力を入れているということを嬉しく思います。
もう一度、大塚商会“たよれーる”チームのみなさん、おめでとうございます!
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*もし、90点を取得するのがどのくらい難しいかということを実感されたいのであれば、是非一度お試しください。認定試験は日本では無料で受験することができます。


詳細はこちら
60点以上を獲得されれば、「ArchiCADマスター」、80点以上を獲得されれば「ArchiCADゴールドマスター」を取得することができます。(認定証の発行は有償となります)
詳細はこちら
http://www.graphisoft.co.jp/jp/certification/publish.html

2011年8月24日水曜日

AIDEA 社の継続的な学習

(これはマニラを拠点とするAIDEA社のBIMの取り組みについての紹介の続きとなります。前回のポストはこちら:AIDEA 社のBIM マネージャー
AIDEA社について私が見た中で、おそらく最も注目すべきコンセプトは「継続的な学習」です。個々および会社全体に向けたBIMに関する教育は、1度だけすればよいわけではなく長期間に渡る時間とお金の投資が必要とされます。最近の状況は、インターネットの大きな波が起こった90年代後半に似ています。企業は洗練されたWebページを作成し始めましたが、初期投資だけではデータの継続的なアップデートを補うことができませんでした。現在、BIMを導入している多くの企業が、この状況と同様に初期段階での学習期間を終えた後、努力を怠るという傾向にあるように思えます。これは大きな間違いだと思います。Webページでの経験から学んだはずですが、それでも多くの人がBIMにおいても個人および会社全体での継続的な学習が必要だということに気づいていないように思えます。
個人について言えばこれは明らかです。まず始めに重要な点ですが、AIDEA社ではArchiCADの知識を持った人を採用しているわけではありません。これはそのような人材を確保することが不可能だからというわけではありません。実際フィリピンでのArchiCADの使用は急速に広まっています。しかし、AIDEA社が優先しているのは、どのようなソフトのユーザーであっても、優秀な若い建築家を採用するということです。AIDEA社のCEOであるジョジョトレンティーノ氏は、BIMを教えることよりも優秀な建築家を育てることの方が格段に難しいと考えています。さらには、ArchiCADの知識が中途半端であった場合、時には間違ったコンセプトの認識を正す必要があり、その為に余計な時間が必要になることもあります。

AIDEA社では、新入社員はまず1週間のArchiCADのトレーニングを受けます。この期間には、AIDEA社内でのインストラクターによるハンズオントレーニングや会社のBIMマニュアルを理解することなどが考えられます。こういったトレーニングに1週間という期間は、それほど長いわけではないと思います。しかし、その後は実務の中で学ぶことになります。最初の1週間のトレーニング後に1人で取り残されるようなことがないということも重要です。それぞれの新入社員には専属のBIMチューターが1年間サポートします。チューターは毎朝、担当する新入社員の上達をチェックし、ArchiCADおよびその他ソフトに関する問題や、その他一般的な問題について回答し、AIDEA社のBIM標準に対してスムーズに取り組めているかどうかを確認します。前回の記事で述べたように、社員のBIMに関する上達はモニタリングされており、またそれが年間の個人評価にもつながります。単純に言えば、BIMの知識の向上なしには、昇給または昇進はありえません。

会社全体の"生涯学習"というスタイルは、さらに興味深く、ある意味では個々の教育にも似ています。"新入社員研修"に相当するのは、2005年に実施された2D CADの一斉アンインストールによる、3か月の"ArchiCAD短期集中講座"となるでしょう。(この話についての詳細はこちら)しかし、それはただの始まりにすぎず、それ以来ずっとAIDEA社はノウハウの完成を目指し続けています。しかし、その必要性は如何ほどでしょうか?また、なぜ一般的な企業は作業方法を決定したとしても、続く3-5年間でそれを実施できないのでしょうか?これはBIMがまだ、一般的な2D CADや会計ソフトが有する、"固定的な"ノウハウと一般的に受け入れられるプロセスのレベルまで達していないからでしょう。BIMは大きな進化であり、Graphisoftを含むメーカー側にも継続的な改善が求められています。新機能の追加や調整は当然、作業プロセスにも影響します。操作はよりシンプルになり、新しい可能性が広がります。従って企業のノウハウもそれに伴い使用方法を改善する必要があるでしょう。AIDEA社ではこういった業務改善はBIMマネージャーが担当しており、毎週のミーティングでArchiCADの新しいバージョンやその他のBIMソフトの利点および会社にとっての適用性等について話し合います。変更が認証されるとBIMのマニュアルが更新され、それを文書化します。こういった変更が重要であるため、新しいやり方について学ぶことができる社員に向けたセミナーを開催しています。
しかし、継続的な学習という考えはアップグレードの為だけではありません。日常業務においても同様です。全てのBIMユーザーは会社全体の利益となるような新しい方法を発見する可能性を持っています。これらの発見を収集するのがスタジオBIMマネージャーの役割で、毎週のミーティングで提案し、話し合います。このような追加事項は頻繁にあるそうですが、承認されれば、それがAIDEA社のプロセスの一部となります。設計者はこれらの改善について"ARCHITIPS"を通して通知されます。このARCHITIPSについても注目すべき方法です。

ARCHITIPSAIDEA社のイントラネット上にあるオンライン"ジャーナル"です。ArchiCADの学習に関連するものであり、BIMマネージャーが"編集長"となる会社内のBIMブログと考えるとわかりやすいかもしれません。BIMマニュアルの変更、利用可能な新たなGDLオブジェクトやアドオン、またはワークフローに導入されたその他の変更がレポートされます。全員がこれを読まなくてはなりません。「ARCHITIPSに書いてあれば、聞いていないとは言ません」つまりルールです。しかし、AIDEA社の設計者はただの読者であるだけでなく、積極的に参加することもできます。多くの設計者は、問題の解決についての新しい発見や、データを軽くする新しいテクニックについて、頻繁に投稿しています。こういった方法でARCHITIPS"継続的な学習"のコンセプトの中心的存在とも言えるでしょう。
つまり、"継続的な学習"なしにはAIDEA社の現在における、高度なBIMの取り組みや効率性に達することはできなかったと思います。実際、AIDEA社が競合他社に対して非常にオープンであり、ノウハウを公開しているという事実を忘れてはいけません。AIDEA社の自信はこういったところにも見られます。毎日改善がされ、良い方向に向かっているので、BIMの知識を外部に共有することを恐れないのでしょう...

2011年8月11日木曜日

AIDEA社のBIMマネージャー

このポストについて、もっと早く書かなくてはなりませんでしたが、最近はかなり忙しい日々が続いていました(もちろん良い意味ですが)。前回AIDEA社の組織とプロセスの詳細について紹介することを約束しましたので、早速AIDEA社のBIMマネージャーのシステムから紹介致します。このポジションはおそらくAIDEA社独自の配置となっていますが、このBIMマネージャーというポジションについては、どうやら日本でもホットな話題となっているようです。(5月にこのトピックについて書いた後、多くのフィードバックと質問を頂きました)
最初にAIDEA社には設計者”BIMオペレーターといったポジションは存在せず、 かわりに”BIM設計者だけであるという点が重要なポイントです。また通常、他の会社で多く見られるケースである、プロジェクトがモデルマネージャーに任命されるということもありません。それぞれ、全ての人が個々のデータを担当し、モデリングルールを遵守し、モデリングします。また、プロジェクト設計者はプロジェクト全体の品質管理および最終的なBIMモデルの調整を担当します。ここでも同様に、AIDEA社では建築設計とBIMモデリングは1つであり、同じものであるということです。
しかし、とりわけ注目すべき点として、AIDEA社にはBIMマネージャーが6名もいるのです。AIDEA社には5つのスタジオがあり、それぞれが15-20名程度の設計者で構成されており、それぞれのスタジオをスタジオBIMマネージャーが統括しています。頭が痛くなってしまう前に申し上げますと、このスタジオBIMマネージャーというポジションは専任ではなく、この仕事における業務の割合はほぼ50%となっており、それ以外は通常の設計業務を兼務しています。この役割として、専任のポジションとなるオフィスBIMマネージャーに報告をします。それでは、AIDEA社のBIMデザインプロセスの役割について見ていきましょう。



以下スタジオBIMマネージャーの担当する業務となります。
  • プロジェクトのセットアップ スタジオBIMマネージャーは新しいプロジェクト毎に積極的にセットアップに参加します。セットアップは常に重要なポイントとなり、適切になされれば後に多くの問題が回避されます。
  • 技術的なサポート スタジオBIMマネージャーはローカルの”BIMリーダーであり、何か問題があれば誰でも自由にスタジオBIMマネージャーに助けを求めることができます。
  • コンプライアンスのモニタリング スタジオBIMマネージャーは、BIMプロセスや会社のBIM規格への準拠を正しく実行するために、あらかじめ定義されたプロセスの特定の段階で各プロジェクトをチェックします。このプロセスは、"プロジェクト監査"と呼ばれています。
  • BIMの学習情報を統合 :各ユーザーは、会社にBIMノウハウをレポートするようになっており、これらの学習情報をまとめるのはスタジオBIMマネージャーが担当します。
  • オフィスBIMマネージャーへの報告 スタジオBIMマネージャーは定期的にプロジェクトチェックの結果を報告し、未解決のBIMの問題や会社におけるBIMの活用および改善案をオフィスBIMマネージャーに提案します。
スタジオBIMマネージャーは、オフィスBIMマネージャーが開催する毎週の定期的なミーティングに参加し、前週の問題点や、ユーザーが発見した新しい方法や改善点について話し合います。そこで、他のプロジェクトにも応用できるソリューションなどがあった場合、"ARCHITIPS"と呼ばれる、同社の内部ブログで公開することで、それを社内の"公式"とします。ミーティングでBIMマネージャーは技術的な問題についても話し合います。例えば、新しいオブジェクトの共有や、ソフトウェアアップデートの導入、BIMマニュアルの変更の承認など。
オフィスBIMマネージャーはもちろん、専任のポジションになります。また、オフィスBIMマネージャーは建築家でもありますが、この専任のポジションの在任期間は2年間となっており、その後は通常の建築家のポジションに戻ります。AIDEA社の社長、ジョジョトレンティーノ氏によると、設計者にこのポジションに就いてもらう際、一時的なポジションとすることで、専任のBIMマネージャーのこのポジションに対する懸念と責務の厳しさに燃え尽きてしまうことを避けることができるそうです。また、オフィスBIMマネージャーは"業務改善や品質保証を担当する部署"にも属し、AIDEA社での設計品質保証の担当者と一緒に業務をします。プロジェクトを成功させるためにはBIMモデルの質は全体的な建築の質から分離することができないものであり、双方が確約されなければならないというAIDEA社の信念を示しています。











AIDEA社の組織で、もう一つ顕著な特徴は BIMプロセスにおける人事部門との統合です。プロジェクト監査の結果は人事部門に送られ、BIMスキルの改善をモニタリングし、これが毎年個人評価の重要な一部となっています。 こういった背景により、社内のBIMの知識レベルが非常に高いことも納得できます。しかし、個々のスキルの高さが最も印象的であったというわけではありません。(もちろん、高い専門的なスキルをもった社員もいましたが、例えば高度なGDLスクリプティングができる社員はこの時点ではいませんでした)重要なのは、全体的な社員の質が高かったということです。AIDEA社では設計に携わるポジションにいる社員は、アルバイトから常務取締役(50歳を超える)まで全てBIMソフトの熟練者でした。
次回は、AIDEA社が実施している具体的な学習方法についてご紹介します。

2011年5月27日金曜日

マニラのレッスン

BD World Architecture (WA)のトップ100に唯一フィリピンからランクインされている、AIDEA社について、以前もこのブログでご紹介しましたが39日に開催されたグラフィソフトパワーユーザーカンファレンス in 東京で、代表のアベラルド・「ジョジョ」・トレンティノ氏に素晴らしい講演をして頂き、先週、同社のマニラ本社へ訪問を実施し、非常に有意義な経験となりました。まず、私はマニラに1990年代に訪問したことがあるのですが、その頃から比べると、現在では東京のように高層ビルが立ち並び、全く別の場所となっており、大変驚きました。しかし、慢性的な交通渋滞や激しい貧富の差などは、当時とあまり変わっていませんでした。











ホスピタリティという面では、フィリピンは笑顔で溢れる国であり、また、私たちの訪問を非常にフレンドリーに迎えてくださいました。それに加え、今回の訪問でAIDEA社の取り組みやノウハウについてご説明頂いた、ジョジョ・トレンティノ氏のオープンな姿勢により、非常に貴重な経験をさせて頂きました。私自身、日本やその他様々な国の企業を訪問していますが、プロジェクトの最終結果としてお話頂くことはあっても、その方法や過程の詳細についてお話頂けることはめったにありません。企業としてノウハウを築いていくことはかなり時間とお金がかかることですので、簡単に公開することはできないというのは、当然でしょう。それにもかかわらず、ジョジョ・トレンティノ氏は、同社の技術の優位性を維持する重要なポイントを理解し、知識を隠すことにエネルギーを使うのではなく、常にノウハウの改善に全力を注ぐという姿勢であり、非常に新鮮でした。










そして、そのノウハウは素晴らしいものでした。フィリピンの一般的な企業は、高い技術力や統制された組織力などとは結びつかないことが多いのですが、今回のAIDEA社訪問により、こういった偏見を捨てなければならないと実感しました。今まで、AIDEA社程、BIMにおいて優れた組織体制を構築されている企業はほとんど見たことがありません。今後、同社の様々な取り組みについてこのブログでご紹介したいと思います。また、BIMはソフトウェアの性能だけではなく、使う人の能力やイマジネーションが重要であるということを再度実感し、ソフトウェアメーカーとして、大変貴重な経験となりました。



2011年4月28日木曜日

OPEN BIM Ecosystem(エコシステム)

エコシステム(生態系)とは何でしょう?ウィキペディアには以下のように定義されています。
「ある一定の区域に存在する生物と、それを取り巻く非生物的環境をまとめ、ある程度閉じた一つの系と見なすとき、これを生態系と呼ぶ。生態系は生態学的な単位として相互作用する動的で複雑な総体である。」
例えば、熱帯雨林のジャングルでは、大きな木が小さな植物や無数の鳥、哺乳類、昆虫に場所を与えます。それぞれが生態的な地位を確立し、それぞれがバランスを維持し、生態系全体の長期的および継続的な生存に不可欠な存在となっています。
しかし、エコシステムは自然界だけの話ではありません。ビジネスの世界においても、優れたエコシステムを確立している良い例がたくさん存在します。例えば、全ての自動車メーカーはそれぞれが独自のエコシステムを持っています。組立部品を生産する協力業者、製品を販売する代理店、整備業者、そして、車に個性と快適さを加える自動車用品を生産している多くの企業が存在します。高級車は大抵、カスタマイズ用の部品生産に特化した関連会社があります。例えばメルセデス・ベンツ社にはAMGBRABUSブランドがあり、BMW社のように専用のドライビングスクールを用意している会社もあります。

このような「ビジネスエコシステム」で、最近の良い例がApple社のiPhone/iPadの関連商品です。iPhone/iPad合わせて40万以上のアプリがApp Storeに存在し、ケース、キーボード、スピーカー等のアクセサリーも数えきれないほど存在します。しかし、非常に厳しい規制があり、明らかに単一の「捕食動物」が支配していると言えるでしょう。恐らくそれがGoogle社のオープンなAndroidシステムに急速に追い越されている理由かもしれません。一般的にエコシステムは、強者が高圧的にならず、「生き、生かしめよ」という原則が浸透している場合にのみ成功するということは間違いないでしょう。もし大きな魚が全ての小さな魚を食べつくしてしまったら、ある日、大きな魚は空腹で周りに誰もいないことに気づくでしょう。これが失敗のもとです。
私たちグラフィソフト社は、弊社のビジネスはこのようなエコシステムを持たずして成功する筈はないと信じています。それぞれの成功したビジネスを運営する何百、あるいは何千もの企業のお客様と結びついて成り立っています。それでは、ArchiCAD、言い換えるなら「OPEN BIM Ecosystem(エコシステム)」はどのようになっているのでしょう?

1つの重要な点として、トレーニングと導入支援があります。これは比較的一般的なビジネスモデルですが、多くのユーザーからの需要に答えるべく、トレーニング、導入支援、BIMオペレーターの手配などの心強いサービスを提供します。このような会社は当然ながらArchiCADの周辺に存在し、ArchiCADユーザーが世界中で増えていくのと比例して増え続けています。
次に、コンテンツです。設計者は、最初から建物のすべての詳細を設計するのではなく、多くはメーカーが販売している既製の部品を使用します。当然ですが設計者は、BIMモデルで作成された部品が​​簡単に入手できることを期待しています。その結果、多くのメーカーがこれに関するビジネスモデルの可能性を認識し始めています。インテリジェントなBIMオブジェクトを使用することで、設計者は既成のドアやエレベーターを利用でき、製品をより深く理解し、製品自体の競争力も高めることとなります。幸いなことに、ArchiCADGDLオブジェクト形式は、小容量でパラメトリックな性質を持った簡単なスクリプト言語であり、この目的に最適です。世界中では30,000以上のメーカー仕様のGDLオブジェクトが存在し、さらにこれらのオブジェクトはパラメトリックであるため、そのほとんどが1つのオブジェクトで何十、何百もの個々の製品バリエーションに対応できます。
グラフィソフトのエコシステム次の分野は、BIMのモデル上で機能する様々なアドオンソフトウェアです。先週私は、今回はドイツのベルリンで開催となったグラフィソフト社の年に一度のインターナショナルパートナーカンファレンスに参加してきました。この会には、世界中から外部の開発パートナーも集まります。そして今回初となる、日本からも開発パートナーが参加され、製品発表が行われました。ArchiCADの機能を向上させるシンプルなアドオンから、生活産業研究所株式会社様のADS-BT for ArchiCADおよびPAL for ArchiCAD、リック株式会社様のLandscape Pack for ArchiCAD(約4,000点のオブジェクトを収録)、BIMデータ上で動作する本格的なファシリティマネージメントシステムであるvintoCON社のArchiFMのような複雑なものまで、ArchiCADBIMデータを革新的な方法で利用した革新的なソリューションが数多く存在し、その数と品質は成長し続けており、非常に印象的でした。

そしてもちろん、OPEN BIM Ecosystem(エコシステムArchiCADのアドオンソフトウェア以外にも、様々なスタンドアロンアプリケーションがあります。私は日本の設備CADは、世界中で最先端の技術であると信じています。どのアプリケーションが最も重要であるかということを議論するのはあまり意味がありませんが、CAD We’llTfasおよびRebroCADEWAのようなアプリケーションは、ユーザーのデータ交換を可能にし、双方のBIMモデルを簡単かつ直感的に参照するという弊社と同じ目的を持っています。OPEN BIM Ecosystem(エコシステムでは、Tekla Structuresのような構造BIMソフトウェアにも同様のことが言えます。さらには、Revit StructureRevit MEPにも簡単に適合されます。これらのソフトにはIFCのインターフェースが適用されており、BIMのデータ交換はIFCが事実上の標準になりつつあります。
全体的にグラフィソフトのエコシステムは成長過程にありますが、目覚ましい発展をしています。成熟した本物のジャングルのようになるには時間がかかりますが、エコシステムの住民の成長に必要な環境はすでに揃いました。もちろん、森林伐採はしたくありません