2011年3月4日金曜日

BIM の相関図 - Part 1

中規模の建築事務所の経営者が、BIMのコンセプトに魅了されます。会社を合理化する方法であると確信し、BIMのシステムを購入し、BIMのマネージャーを任命し、「今年中に全てをBIMにする」という目標を伝えました。そして、そのまま安心しきっていました。しかし、その年末にはBIMプロジェクトは大失敗になりました。社員はBIMを嫌い、従来通りの2D手法に戻ってしまいました。
このような話は、よくあることです。しかし、何が間違っていたのでしょうか?様々な要素がありますが、現状で見受けられるBIMソフトウェアの機能の優位性や、企業がBIMで何を達成したいかという方向性やそれを実現する計画の重要性については今回は触れません。これらはいずれもBIMでの成功に重要な項目であり、私も過去に何度も触れてきました。今回の投稿では「相関図」に絞って書きたいと思います。つまり、BIMにはどのような役割があり、誰が担当するかということです。
残念ながらBIMは、新車のように買ってそのまま運転して帰るというわけにはいきません。
例えて言うと、ERPシステムに近いものがあると思います。ERPシステムは主に経営者や会計担当者が使用するものですが、導入の際はさらに多くの社員が関与しなくてはなりません。そうでなければ、導入は惨憺たる結果になることも考えられます。ERPシステムは業務過程の再考が必須であり労力のかかる作業ですが、一度導入してしまえば業務は以前よりはるかに効率的になります。BIM導入もこれに近いものがあります.
重要な点は、実際の設計担当者から管理者まで、全ての関係者がBIMに組織的に取り組まなければならないということです。しかしこれは、「全て」の人が「全て」を習得しなくてはならないという意味ではありません。例えば、管理者にとっての「取り組み」は必ずしも「使える」必要がある、という意味ではありません(それに越したことはないですが)。それでは、役割の種類とその意味を「ボトムアップ」に見てみましょう。

ユーザー:実際のユーザーからの協力がなければ、BIMプロジェクトが成功するはずはありません。それにも関わらず、「なぜBIMが導入され」、「どのような到達目標があるのか」ということを、ユーザーが理解していないケースは多々存在します。管理者は十分な時間を費やして、企業としてBIMで何を達成したいか、導入努力によりどのような効果があるのか説明する必要があります。この説明の後に、適切なトレーニングを提供し、予想される質問に対応できるような明確な社内サポート体制が必要となります。
チームモデルマネージャー:各プロジェクトチームにつき1人のモデルマネージャーを選任し、BIMモデルの整合性を管理します。モデルマネージャーはファイルの構成や、チームワークであればモデルの分担を検討し、社内のBIMマネージャーによって設定された標準を導入し維持する役割があります。当然の事ですが、モデルマネージャーはBIMエキスパートであり、BIMモデル作成を理解して、楽しんでできる人が良いでしょう。多くの場合、この役割はプロジェクトの設計担当者が適任で、BIMシステムに精通しており、プロジェクトの規模が大きくない事が条件です。この条件に該当しない場合、2つの役割を分けたほうがよいでしょう。
インターナルBIMマネージャー:経営者の望む社内の全てのことを一人でやってのけるのが、BIMマネージャーです。実際にはそのような人材はいないかもしれませんが、その役割は非常に重要で、多岐にわたります。BIMの社内標準の検討および文書化、導入および成果の監督、自身および外注による必要な社内向けコンテンツの提供(オブジェクト、テクスチャーなど)、テクニカルサポートの管理および提供、利用者の習熟度の定期的な確認、必要に応じてトレーニングプログラムの管理などを行ないます。その人の性格も重要な要素です。BIMマネージャーは社内(場合によって社外)において「BIMエバンジェリスト」となり、BIMの将来を確信している存在でなくてはなりません。この役割は社内のIT担当者から選任することが多いのですが、それは間違いです。BIMマネージャーは設計の流れを徹底的に理解している必要があるので、IT担当者に建築の知識ががなければ失敗の原因となるでしょう。2D CAD管理者も候補となるでしょう。CAD管理者が設計者であれば、決して間違った選択ではありませんが、以前は2D CADを担当していた管理者がBIM概念にしっかりと取り組んでおり、BIMプロジェクトをひそかに投げ出さないように確認する必要があります。理想的には、熟練した設計者がこの役割を担当することですが、残念ながら、一時的であれデザイン作業を離れて、BIMマネージャーの役割を引き受ける人を探すのは困難でしょう。建築はそれほど魅力的なのです。。。
コラボレーティブBIMマネージャー:ここまで建築BIMだけで、他の分野との連携については触れてきませんでした。BIMを建築分野だけで利用することにも価値はありますが、本来の能力と効果は多分野での連携を実践することで発揮されるのです。しかし、構造や設備とのBIM連携は複雑な作業のため、軽視できません。通常このような連携はオープンなBIM環境で行われ、他のシステム(設備、構造)の機能に加え、IFC標準に関するある程度の理解が必要となります。大抵の場合、設備や構造担当者は社内にいない為(ゼネコンであれば別ですが)、ここから先はプロジェクトの契約関係およびビジネス面の理解が必須です。ここまでは、主に設計者が必要となっていましたが、この仕事はエンジニアやプロジェクトマネージャーが担当することができます。ただし個人的には、自分も設計者だからかもしれませんが、技術に精通した設計者が最適だと考えます。いずれにせよ、経歴に関係なく、BIMシステムの徹底的な理解、高いコミュニケーション能力、そして業界の幅広い知識が必須です。この仕事もまたプロジェクトにより異なりますが(外注業者および契約条件が異なる)、巨大プロジェクトを除けば、専属の担当者を必要としないので、コラボレーティブBIMマネージャーは複数のプロジェクトを監督できます。
BIMディレクター:この業務は、技術というよりもビジネス寄りの役割です。BIMディレクターの主な責任は必要な契約上の体制を確保することで、BIMシステムの導入による利点を企業の利益へと変化させる分野です。従って、契約プロセスに深く関与する必要があり、ある程度の法的な知識、特に知的財産権に精通している必要があります。ここでの疑問は、成果物のどの程度をBIMデータとするべきか、というものです。現状は、そもそも成果物は純粋に2DのためBIMデータは全く含まれていませんが、これによりBIMの有効性が大幅に制限されており、徐々に変化する必要があります。社内体制のこの層でBIMシステムの運用知識は必要ありませんが、BIMディレクターもまたBIMによって実現可能な事、不可能な事について認識し、業界の方向性に関する幅広い理解が必要です。インターナルあるいはコラボレーティブBIMマネージャーよりもさらに、BIMエバンジェリストとして業界に対する企業の「BIMの人」となる必要があります。
「こんなに新しい人材が必要なのか!」と思われるでしょう。確かにこの体制は小さいものではなく、中規模の企業ですら整備が難しいかもしれません。しかしこれは「役割」ですので、兼任しても構わないのです。次回は、小規模の組織でも同じ機能を果たしながらどのように役割を兼任できるか書きたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。