2010年4月28日水曜日

マスモデルか、BIMモデルか?

建築家がマスモデルでの検討を好むということは否定できません。しかし、ここでは物理的なマスモデルについては触れません。BIM時代であっても、その特別な役割は変わらないでしょう*。けれども、バーチャルモデルはどうでしょうか?BIMプロセスにおいてその役割は何でしょうか?別のものにしておくべきか(恐らく別のアプリケーション内で)、それともBIMモデルと一緒に作成した方が良いでしょうか?




まず、「マスモデル」と「BIMモデル」とは何かについて説明しておきましょう。「マスモデル」とは、初歩的な「ねんど状の」3Dモデルで、デザインの基本的なコンセプトを決定するために使用されます。マスモデルには通常はドアや窓など細部は必要なく、全体的な形状を除けば建築属性はなく、正確である必要もありません。

これに対して、「BIMモデル」は通常は細部まで正確であり、マスモデルを「ねんど」モデルと言うとすれば、BIMモデルは「スチレンボード」モデルと言えるでしょう。最も重要な違いは、BIMモデルには柱、梁、スラブ、壁など建築属性がある事で、モデルから出力される元データとなるので正確である必要があります。この定義から分かるように、BIMモデルはBIMソフトウェアでのみ作成することができます。









マスモデルを作成するには、様々な3Dモデラーソフトウェアを使用します。最も良い例はSketchUpで、その名前の通り3次元スケッチを作成するには簡単操作で楽しいツールです。また、BIMソフトウェア内でそれらの3Dモデラーソフトウェアを使用してマスモデルを作成する事もできます。
ArchiCADでは、ゾーンツールを使用し、必要に応じてソリッド編集で切り取る事をお勧めします。さらに、スラブ、壁、メッシュを使用する事もできます。

しかし、最初は「ねんどモデル」で始めて、途中で「スチレンボードモデル」に変える事はできないのでしょうか?このようなマスモデルをBIMソフトウェアで処理して、マスモデルからBIMモデルにインテリジェントに変換する事は不可能ではありませんが、この方法には常に問題が発生します。予め申し上げるとこのような変換が完璧になる事はありません。「属性のない」モデルにインテリジェンスを追加する事は非常に難しいのです。このオブジェクトは短い壁でしょうか、変則的な柱でしょうか?これは屋根でしょうか、傾斜した壁でしょうか?変換アルゴリズムで、学習予測はできますが、後処理として、結果を確認して問題を修正する必要があります。次に、さらに深刻な問題は精度です。SketchUpのような専用の3Dモデラーソフトウェア(あるいは他の3Dモデリングツール)は、BIMソフトウェアよりも精度が低いのはこれからも変わらないでしょう。このようなデータを使用してさらに細部を追加すると、詳細設計や設計図書の段階で大きな問題となる可能性があります。1mと思っていたものが0.999mとなっていたりするのです。実験した事のある人なら分かる事ですが、モデルがさらに複雑になってから、このような些細で隠れた相違点を修正する事は非常に大変です。データ変換の際に、最初からこのような相違点が分かって修正するとしても、ArchiCADで(そしてその際は正確です!)同じモデルを最初から作り直した方がずっと簡単であるという事が分かるでしょう。

以上の様な結果から、データを変換して編集する事に労力を費やすよりは、マスモデルとBIMモデルを別々にし(同じファイル内にあってもかまいません)、参照モデルとして使用する事を推奨します。つまり、マスモデルをビジュアル的な参照に使用して、BIMモデルの作成(あるいは再作成)を迅速に行う事ができます。このプロセスはマスモデル特有のものではないので(構造や設備モデルでも同様で、比較編集プロセスが採用されています)、今後、参照モデルと比較してBIMモデルを調整するためのツールをご用意して、このプロセスをさらに簡単にしたいと思います。

しかし、ここで別の質問があります。どの時点でBIMモデルを作成するべきでしょうか?早ければ早いほどいいと考えます。事実、さらに話を進めると、最初からBIMモデルを作成する事を推奨します。その理由は明解です。第一の理由は、BIMモデルを作成することはマスモデルを作成する事より必ずしも難しいわけではないからです。ArchiCADでは、「スチレンボードモデル」を迅速に作成するための適切なツールがあり、「ねんどモデル」と違い、デザインプロセス全体で利用できます。第二の理由として、そしてさらに重要な点としてBIMモデルではデザインの様々な分析を行う事ができ、その後の進め方に関する貴重な洞察を得る事ができます。

1つの例を考えてみましょう。環境解析です。モデル内に単純な壁とスラブなどがある(つまり、おおまかなBIMモデルがある)なら、EcoDesignerを使用してデザインの特性を確認して簡単な分析を作成できます。正確である必要はなく、建物の将来の環境性能を念頭に入れたデザイン決定を行うために必要なものだけ作成します。同様に、簡単な面積表を作成することによりデザインの「収益性」を実証できます。最後にそして最も重要な理由として、簡単な平面図や断面図も実際には「副産物」として作成できます。「ねんどモデル」(3Dモデラーソフトウェア他のプログラムで作成されたもの)では、以上の様な事はできないので、このような利点からも、モデリングを覚える努力にも見合う価値があると言えます。明らかに、BIMモデルを早めに使用すればするほど更に利用価値が高いと言えるでしょう。

はっきり言えることは、デザインのためのBIMモデルを初期の段階で作成すれば、別のマスモデルの必要性はほとんどの場合疑問視されると言えるでしょう。確かに、BIMモデルはマスモデルを作成するよりも様々な目的で役立ちます。1つ可能性がある論点は、マスモデルの作成と編集は簡単でなければならないという事です。私たちは、これを更に進化させていきたいと思っており、モデリングを単純で簡単、そして楽しいものにする事がプロダクトロードマップの中心だと考えています。弊社のビジョンはこの2つのモデルを徐々に1つに結合する事です。1:2001:50の設計図書は同じモデルの異なるビューなので、別のモデルが必要ないのと同じです。なぜボリュームスタディの際だけ別のモデルが必要なのでしょうか?ビルディングインフォメーションモデル(今回は正確な名前で呼びましょう)の別の見方ではないのでしょうか?個人的にも、これは建築モデリングに関する弊社のビジョンに最適と思います。

最後に、以下の事を皆さんに推奨します:

  • BIMモデルの構築をできるだけ早い段階で開始し、建物に関する様々な分析を実行してその利点を最大限活用する
  • 別のマスモデルを作成する必要を感じても、BIMモデルとは別にし、ビジュアル参照として使用する

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* 更に、BIM モデルがあれば、このような物理モデルや模型(スチレンボードモデル)を作成することも簡単になります。

2010年4月8日木曜日

ArchiCAD Solo は、元気 ?

三月も終わりました。弊社にとってはまだ年初ですが(グラフィソフト社は12月が年度末です)、グラフィソフトジャパンの新商品である、ArchiCAD 13 Soloの売り上げに対する評価を行う良い時期です。ArchiCAD 13 Soloは順調であり、さらには小規模設計会社には好評です。今年、日本でBIMへ移行した会社のほとんどはArchiCAD Soloを選んだと確信できる理由があります。これは弊社が今まで考えてきた、「BIMはゼネコンと大手設計事務所のためだけの贅沢品ではなく、小規模設計事務所にも新しいテクノロジーの需要が必ずある」という信念を裏付けるものです。

最近よく耳にするのは、「限定500本サプライズ価格キャンペーンがいつまで続くのか」という質問です。お客様がいつ購入していただけるかにかかっているので、予測は難しいのですが、その勢いが加速しているのは確かです。残りわずかになった際は、またご報告したいと思います。

2010年3月24日水曜日

CASBEEとBIM:美しい友情の始まり

個人的ですが、「90年代からの変化」をリストするなら、環境問題は重要な項目に入ります。 リサイクル、CO2排出削減のための公約、ハイブリッド技術の使用など、日本では気候変化が人類にもたらす課題を非常に真剣に受け止めています。他国でもこのような日本の態度を見習ってほしいところです。この日本での関心を裏付けるものとして新しい環境基準、CASBEEがあげられます。専門家によると、これは世界の中でも最も包括的な環境基準の一つだそうです。また同時に、建設業界、建築家、建設企業やコンサルタントにとって、この基準は無視できない課題となります。

とは言うものの、建築家にとって仕事量の増加を意味し、また正直に言って、建築家が好む仕事内容ではありません。建築を仕事と選んだ人は、何時間も何日も単純な計算に明け暮れることではなく、人々の要求への理解、空間のデザイン、建材の選択など、創造的な仕事を夢に見ていたはずです。しかし幸いにも、1930年代にフォン・ノイマン(ハンガリー出身)がコンピュータを発明し、それ以降、時間がかかる煩雑な仕事を、人間の代わりとして高性能な機械が行う事を期待しています。そして無論、CASBEEに対しても同じように期待しているでしょう。

具体的に言うと、課題は計算することではありません。計算することは、既に無償のエクセルシートが配布され、計算式も用意されています。実際には、計算の基準となるデータに課題があり、このデータには、床面積や断熱性など、実際の建物、そしてBIMモデルの属性が含まれています。他には、周辺環境からの騒音量、室内の居心地、また地域に対する建物の積極的な影響度など、建物形状に関係していない項目も含まれているので、別途入力する必要があります。弊社の最終的な目標は、建物モデルから生成できるデータは「全て」BIMモデルから自動的に計算できるようにすることです。したがってBIMソフトユーザーにとってさらに利益が増える、つまりBIM天秤の重りがまた増えることになります。残念ながら、公式規定は今年の6月または7月ごろになると思われますが、一部のBIMソフトが新しい基準を7月からすぐに対応できるのか興味深いところです。また、データがArchiCADBIMモデルに入力されていたとしても、ArchiCADファイルから必要なデータを抽出できるアドオンを準備するまでには時間がかかります。しかし、既存そして新規のArchiCADユーザー皆様にお約束したいのは、必要な事が把握でき次第、この機能の開発を最優先事項の一つとする事です。

2010年2月15日月曜日

天秤の日陰

私が初めて日本に来たのは平成の初期でしたが、最初に気づいたのは建物に傾斜壁が多用されていたことです。当初は日本における建築の流行だと思いましたが、通っていた大学の教授によると、日本の日影規制が厳しいためである事が分かりました。建設業者が建築面積を最大限活用しようと試行錯誤した結果と言うわけです。

再び、グラフィソフト社に勤務するようになり、このような複雑な処理を行える建築用ソフトがいくつかあることを知りました。しかし気になったのは、そのソフトにもう一度モデルを入力しないと計算ができないという点でした。これは二度手間です。すでにBIMモデルを作成しているのであれば、そのデータを利用して計算を行いたいところです。そこで最初の段階として、日本で知名度の高い生活産業研究所株式会社の「ADS」という日影計算ソフトとArchiCADのデータ連携を実現しました。これにより、ArchiCADBIMモデルをCW2形式(ADS形式)に変換して、再入力することなく日影分析が行えます。

しかし、BIMの真価は受動的にモデルの確認を行う事だけではなく(モデルを初めから作り直さなくて良いのはもとより)、自由に設計検討しつつ法的側面も継続的に管理できることにあります。そのためにはBIMモデルで直接行える確認/検討機能、つまり弊社の場合ArchiCAD上のアドオンが必要です。これを達成するには生活産業研究所と密接に開発を行うことが不可欠でした。先日、二社の業務提携が正式に発表されましたが、以前から共同開発を行っていましたので、同時に最初の製品を発表しました。「Shadow Planner」というアドオンで、日影計算の重要な部分をArchiCAD上で実行できます。さらに、生活産業研究所の好意により、このアプリケーションはArchiCADユーザーに(もちろんSoloユーザーにも)無償で提供されます*

しかしこれで終わる事はありません。弊社の目標は全ての日影計算を、そしてさらに大きな発想としては、全ての法規確認をArchiCADBIMモデルで自由に行えるようにすることです。これもまた、BIMの理想と言えます。BIMモデルを一度作成すれば他の必要な作業が自動的に行われます。このような機能が増えてくれば、「BIM天秤」の右側がさらに重くなることになります。


* 現在、Windows版のみ入手可能

2010年2月2日火曜日

Soloの誕生日

昨日、ArchiCAD Soloの販売開始にあたり、新製品の成功を願って社内でささやかに門出を祝いました。この商品に対する関心は高まっており(先週すでに最初の注文がありました)、Soloがその使命を全うして日本におけるBIMの流れを変えることを大いに期待しております。

ハンガリー本社の遊び心として、スターウォーズに出てくる「ハン・ソロ」の絵の入ったSolo起動画面を作っていました。勿論これを実際に使うことはありませんが、一言加えるとれば「フォースと共にあらんことを」というところでしょうか。

2010年1月29日金曜日

ウィスキーと雪

恒例の年初のセールスカンファレンスが行われたブダペストから戻ってきました。会議ではとても興奮しました。グラフィソフトに復帰してから初であり、各国のグラフィソフト社支店の代表に会える機会となりました。お互いに話し合うこと、学ぶことがたくさんありました。会議では、弊社代表のビクター・バルコニーが「グラフィソフトの状況」について発表しました。弊社は公開会社の一部であるため明確な数字は開示できませんが、世界の経済危機にも関わらず弊社の業績は予想を上回り、財務的にも健全な状態にあることはお伝えしておきます。

90年代に、私が最初にグラフィソフトジャパンを経営していた頃、日本の顧客に重要と考える新機能の作成を開発チームへ要請する事が社内での評判となっていました。開発チームの苦労を少しでも埋め合わせするため、ハンガリーへ戻る機会にはいつもウィスキー(勿論モルトです)を開発チームへのおみやげとし、お礼をしていました。今回はこの習慣を再び始めることができるようになり、お礼する理由もありました。開発チームは非常な速さで新しいSolo版を作成しました。実を言うとこの製品は去年の開発スケジュールには全く入っていなかったので、2月1日にリリースしたいという意向を伝えた時点では私自身も半信半疑でいたのですが、最初の「交渉」としては良いだろうという程度に考えていました。しかし、驚いたことに希望通り完成し、プロジェクト関係者と会った際にグラフィソフトジャパン社員一同からの感謝の気持ちを伝えました。

ただし、ウィスキーを飲むために集まったわけではなく(約15人でウィスキーを分けました)、それ以上に日本での戦略や計画について興味を示しました。通常ソフトウェア開発者というのは会社の営業活動には興味を持たないものです。しかし、グラフィソフト開発チームの離職率が他社に比べて小さいせいか、開発チームは「子供」が市場でどのような反応を得ているか、製品開発に費やされた膨大な努力に見合った結果があるか知りたがるわけです。私は日本の計画について伝え、次にハンガリーに戻る際には(恐らく4月)またウィスキーを持って帰ることを約束しました。何のお礼でしょうか?すみません、それはまだ秘密です。。。
ちなみにブダペストはどうだったかというと、はっきり言って「寒かった」です。日本の人は「ハンガリーは寒い所」と言いますが、私はそう思っていません。ハンガリー人は寒いと思わないのです(寒い国、というのはハンガリーより北のところです)。ただし今回は、暖かい東京から行ったので、確かに何か違うということを認めざるを得ませんでした。道には雪が積もり、気温はほとんど氷点下でした。地球温暖化の影響はブダペストにはまだきていないようです。。。

2010年1月14日木曜日

「みんなのBIM」その答え!

明けましておめでとうございます。

去年の最後のブログでは、「BIMは大企業だけのものでなく、個人の建築家や小規模な設計事務所にも手頃な値段でBIMツールが必要」と書きましたが、そのソリューションについてはあえて触れませんでした。その時点ではいくつかの考えはありましたが、まだ計画、計算そして検討の段階でした。今、その答えが完成しました!




グラフィソフト社が、このバージョンを5年前や5年後ではなく、今発売するのはなぜでしょうか。小規模な設計事務所のための廉価版の発売は1990年代にも検討されていました。一番大きな問題は、低価格版とレギュラー版をどのように区別するか、という点でした。3D機能を外して、低価格の2D作図用のArchiCADを作るという案もありました。しかし、これは「作図する」のではなく、「3Dモデルから図面を生成する」というBIMコンセプトに正対する考えです。私はこの案に反対しました。数々の検討の結果、その時点ではArchiCADの製品の品質を落とすことなく外すことのできる機能がなく、時期尚早という結論に達しました。

その後、2008年には「STAR(T) Edition」(SE)と呼ばれる製品が日本でも発売され始めましたが、販売数は伸びませんでした。この製品は、作図機能を外したこと、レギュラー版へのファイル互換性に欠けること、またバージョンアップが保証されていないことなどが理由により、マーケティングツール以上のものを期待する日本の市場には向かなかったと思います。

しかし、その後完成した「ArchiCAD13 Teamwork 2.0」は生産性を飛躍的に向上するため、ハイエンドであるレギュラー版と低価格版を区別する理想的な機能であると考えました。チームワーク機能がなくてもArchiCADも利用でき、小規模な住宅プロジェクトなどでは必要とされることもありません。しかしながら、大規模物件ではチームワーク機能は非常に大きな効果があります。ゼネコンや大手事務所では、生産性を向上させるこの機能には付加価値があり、投資が無駄になるリスクはありません。

STAR(T) EditionArchiCAD13 Soloの基本的な違いは、Soloがレギュラー版へのアップグレードを視野に入れた「架け橋」を提供するのではなく、主要製品としてSolo用バージョンアップが保証されており、Soloから通常のチームワークバージョン(ArchiCADレギュラー版)への乗換えることなく使い続けることができるように開発されています。ArchiCAD Soloの機能詳細に付いてはここでは触れませんが(詳細はこちら)、ここで強調したいことは、全ての編集、作成機能が揃った「正真正銘」のArchiCADであるということです。更に重要な点は、レギュラー版と100%双方向のファイル互換性があるということです。

このArchiCAD13 Soloを商品化するにあたり、「ブダペスト本社の承諾」、という条件を満たす必要もありました。幸運にも、新しい若くて斬新なグラフィソフト経営陣は、日本においてArchiCADの販売を促進するためには、大規模な組織での成功と利益だけではなく、小規模な設計事務所でも市場拡大を図ることの重要性を十分理解しています。広い範囲に提供できる商品が必要とされているのです。Soloの価格帯はすぐに収入に繋がるものではありませんが、グラフィソフト経営陣はこの戦略を今後のArchiCADビジネスへの投資として理解し承諾しています。

正直に言って、今とても興奮しています。ArchiCADビジネスに携わるようになって以来、この考えを実行したいと考えていました。個人的に、本当のグラフィソフトジャパンの姿はここから始まると考えています。