2009年12月18日金曜日

興奮と困難

今年も終わりに近づき、一年を振り返る時期になりました。今年についての感想を一言で表すと「興奮」と「困難」につきるかと思います。

「興奮」の理由として、一年前には東京にまた戻るとは夢にも思っていなかったことがあります。ですから再就任する話が今年3月に出てからは本当に興奮する毎日でした。まず最初に、そもそも日本に来るか(実際来ました)、次に、この仕事をする器量がまだあるか(あると願っています)、また、滞在が短期間か長期間になるのか(結局は長期間になりました)検討する必要がありました。また、グラフィソフトジャパンにとっても興奮する年となり(理由の一部は私にあると思いますが)、今年は沢山の成功も続きました。日建設計と鹿島は大規模案件でBIMによるデータ連携の実用に向けた試行を始めた、清水建設の迅速なBIM導入、Build Live Tokyoでの二つの最優秀賞の受賞(最初に前田建設のスカンクワークス、次に清水建設のストリームチーム)、そして数々の受賞をしたアールテクニックのシェルハウス、と数々あります。

同時に、今年は「困難」な年でもりました。明らかに、経済危機は弊社にも影響を与えています。BIMを始めたいと願っている建築家も、価格の面でリース契約が取れないため導入できない、という残念な状況も目にしました。前回のブログにも書いたように、BIMは大中企業(ゼネコン、組織設計事務所)には比較的迅速に普及しますが、アトリエ事務所など小規模事務所でもBIMを導入できるようなソリューションが必要とされているのです。

これから先は何があるしょうか?さらに多くの困難、興奮が待ち構えていると思います。経済は回復してきてはいますが、リーマンショック前の状況まで回復するにはさらに時間がかかるでしょう。投資はまだ厳しい状態が続き、経費も最小化されるでしょう。しかし、国内外での競争が激しくなる中、日本企業にとってIT化に遅れをとらないことが重要となります。ここ数年、BIMがようやく建築業界で実践されつつあります。そして、今後3から5年の間にBIMが本格化することが予想されます。今、BIMを導入すれば、後から必要に迫られて導入する企業に比べて有位に立つことができるでしょう。日本の設計会社がこの明快な事実を見逃さず、他に遅れをとらないことを切に願います。

それでも、日本におけるBIMの未来に関して、個人的には今までにないほど楽観的です。日本の伝統的な侍魂は、困難な状況でも常に最善を尽くすことができ、日本の建設業界もこの危機からさらに強力になって脱出する可能性が十分あると思います。そして興奮を感じる理由でもありますが、弊社がその奮闘を支援できると信じております。

これが今年最後のブログ投稿となると思いますが、ここで弊社のBIMソリューションを信頼してご利用いただいている方々にお礼を申し上げたいと思います。また、様々な場面で支援してくださっている方々、ビジネスパートナー、サポーター、そして東京、大阪、ブダペスト、世界各国のグラフィソフト社員にも感謝しています。

メリークリスマス、そして良いお年を!

(2010年に続く)

2009年12月10日木曜日

みんなのBIM

このところBIM熱が高まっていますが、ほとんどのBIMユーザーが大手事務所であり、真っ先に上げられるのは大手ゼネコンです。Build Live Tokyoの上位者はゼネコンだけでしたが、もちろん各チームの参加人数を考えれば当然とも言えます。全ての設計行程を請け負うゼネコンがBIMからの利益を最も得ることができるとはいえ、BIMは本当にゼネコンのためだけのツールなのでしょうか?

実際には、設計全体を請け負わない事務所にもBIMは大きな利益をもたらすはずです。結局のところ建築家は整合性のとれた設計図書の作成が求められ、できなければ次の仕事の依頼はこないでしょう。「ビルディングモデル」が建築家の頭の中だけで存在するなら、設計図書の整合性はとれません。セントラルビルディングモデルを利用して設計図書を作成する方が簡単なことは間違いありません。3Dデータ作成が手間のかかる仕事だったとしても、その結果は確かに努力に値するのです。ではどうして中小規模の設計事務所はBIMの導入に遅れをとっているのでしょうか。

一つの理由は、まだ最新の情報が伝わっていないということです。もし伝わっていたとしても、誤った情報が伝わっているかもしれません。実際「別の3DモデルでもBIMと同じことができる」という意見をしばしば耳にしますが、多くの建築家はまだプレゼン用モデルとBIMモデルの違いを理解していないことが分かります。結局のところ、設計図書がビルディングモデルと連動していなければ整合性を図る事はできないのです。

また一方で多くの建築家はBIMのコンセプトを理解していながら、それでも2Dを使っています。この場合、考えられる理由は価格です。BIMソフトは安くありませんし、ArchiCADも例外ではありません。高価であるのは、高度な機能を開発するための膨大な労働(弊社の場合20年以上)が反映されているからです。とはいえ、弊社は大企業との大きな取引だけで満足するつもりはありません。中小企業も整合性のとれた設計図書とビルディングモデルの利益の恩恵を受けられるべきだと確信しています。

現時点のこの問題は必ず解決します。それが来年の日本での私たちのゴールだからです。

2009年11月26日木曜日

おめでとうございます!

お客様の成功について耳にするのはいつでも嬉しいものです。1つには、知っている人が成功しているのを見る事が嬉しいということもありますし、もう1つには、ささやかな願いとして弊社製品がこの成功に少しでも貢献できればと願っている(実際、そうであると信じている)からです。ですから、ダイナースクラブのテレビコマーシャルでアールテクニック社のデザインによる「シェル」が映っていた、と社員から聞いたときはとても嬉しく感じました(実際のコマーシャルはこちらから 動画の最初の16あたりで数秒映ります)。
この素晴らしい建物が初めて評価されたわけでもなく(2009年度の「グッドデザイン賞」や「モダンリビング大賞」を受賞)、コマーシャルで建物が映ることが建築家にとって最高の結果と言うわけではありませんが、間違いなく一般の知名度が高い事を意味し、プロフェッショナルとしての光栄に感じる以上のものがある事でしょう。興味深い点として、アールテクニック社はこの複雑な建物全体をArchiCAD3Dモデル作成しただけでなく、設計図書を含む全ての建物資料をモデルから生成したという点です。これもまた、BIMは大規模物件だけでなく、住宅設計においても十分活用できるソリューションである、という事の証明になります。

この建物についての詳細はアールテクニック社のホームページ(http://www.artechnic.jp/
Residential」をクリック)からご確認ください。また、以下のページからもご覧いただけます。

「グッドデザイン賞」

http://www.g-mark.org/award/detail.html?id=35442

「モダンリビング大賞

http://mdnlvng.exblog.jp/12768662/

「米インテリアデザイン誌最優秀賞

http://www.interiordesign.net/info/CA6706220.html


井手さん、おめでとうございます!

2009年11月10日火曜日

BIMの天秤

なぜ3Dなのか?楽しいから、でしょうか?確かに、3Dモデルの作成は楽しい作業でもあります。しかし、単に「楽しい」というだけの理由で3Dを利用している場合、建築設計者としてではなく、他の設計者や映画作成などCG製作が合っているでしょう(おそらくこのブログの読者ではない)。完成した3Dモデルを眺めるのは楽しいかもしれませんが、実際に3Dモデルを作成する作業はできるだけ簡単にしたいと思われていることでしょう。率直に言うと、設計者の多くは3Dモデル作成が面倒くさく、つまらない仕事と考えています。それでも3Dモデルを作成する理由は、3DモデルはBIMモデルとなり、BIMモデルは整合性の取れた設計図書、仕上げ表、数量、環境分析などに利用できるからです(ここではArchiCADの宣伝はやめておきましょう)。

この二つの側面、BIMモデルを作成する努力とその成果としての利益がバランス良く保たれないと、努力と利益が釣り合わないと感じ、結局、使い慣れている2D手法から抜け出せない事になります。これは「天秤」に似ていると言えます。努力と利益のバランスが取れている、または利益の側が重い事が望ましいのです。

もちろん、弊社は現状に満足することなく、ArchiCAD、そして「BIM天秤」のバランスをさらに向上させるよう開発を行っています。開発にあたっては、BIMモデルの作成を簡単にすることに多くの努力が注がれています(実際、要望の多くはこの分野です)。つまり片方の天秤皿(努力)から重りを減らすことです。しかし、バランスを改善するには他にも方法があります。それは右の天秤皿にもっと重りを足すことです!つまり、BIMモデルの利益を増やすことです。1990年代を思い出してみると、天秤のバランスは適切ではなかったと思います。整合性の取れた設計図書という利益はありましたが、モデルを作る努力が大きすぎました。BIM(当時は「バーチャルビルディング」と呼んでいた)は弊社製品の将来性を期待した数少ない先駆者の「ハイテクな趣味」でしかなかったのかもしれません。その後、BIMモデル作成をより簡単により速くするための改善に沢山の努力が費やされ、天秤のバランスも良くなってきたと言えます。

それでは、ArchiCAD 13の発表によりBIM天秤のバランスがどのように変わったのでしょうか。

  • ArchiCAD 13の改善項目は、左の天秤皿から重りを減らす効果があります。「チームワーク2」は、BIMモデル作成を効率的にする大きな改善となり、64ビット対応は作業負荷を大幅に削減します。
  • MEP Modellerは、設備データの作成を可能にし簡単に行えるだけではなく(左の天秤皿が軽くなる)、同時に分析ツールとしても機能します。また、干渉チェック機能を使えば建築/設備モデルを統合した利益が増えることになります(右の天秤皿が重くなる)。
  • ECO Designerは、一般的な分析ツールです。多少の追加入力を行うだけで、すぐにその利益を実感できます。右の天秤皿がさらに重くなります。
  • 新しいVBEも、明らかに利益の側にあり、BIMモデルを視覚的に確認できるようになります。今回の新しいVBEでは高価なビデオカードが必要なくなり、より多くのユーザーが利用できるようになります。

左の天秤皿から重りを減らす作業は主に弊社開発グループの仕事になりますが、右の天秤皿に重り足すことはパートナーの強力も借りています。協力会社が新しい分析ツールを開発することで利益の増大を助けていただいています。BIMデータを活用する例として、空気循環分析(「Flow Designer」や「WindPerfect」)、日影計算や天空率(「ADS」や再発売予定の「MicroShadow for ArchiCAD」)、ファシリティマネジメント(ArchiCADベースの「ArchiFM」が日本での発売を検討中)などが挙げられます。これはまさに「チームワーク」です。より多くの人が同じ作業を行うことにより、より早く完成するのです。

お分かりいただけたと思いますが、右側の天秤皿では様々なことが起きています。まだBIMモデル作成は難しいと感じておられるのであれば、BIMモデルを本当に十分活用しているか考える必要があるのかもしれません。

2009年10月26日月曜日

グラフィソフトの暦

私の経験では、ソフトウェア会社の人間は年を数えるのに「1年」という単位ではなく、その時リリースされたソフトウェアの「バージョン」で考えているようです。 例えばグラフィソフト社でも、以前の話をする時は「あれは1997年頃だった」と言う代わりに、「あれはバージョン6.5の時だ」とか、「あれはArchiCAD 10より前のことだ」というように使います。新しいバージョンは、新しい年、新しい製品、新しい始まりを意味するのです。ですから新製品発売日はまるで元旦のようなものなのです。ブダペストの本社では新しいバージョンの出荷ごとにシャンペンを開けて祝ったものです。今年は弊社にとって非常に躍動的な年になりそうです。まさに21世紀のアプリケーションとして、スピード、信頼性、共同作業の簡易さなど全ての面において改善されたArchiCADの始まる年だからです。

新年が世界同時に始まらないように、「バージョン年」も国によって違う日に始まります。日本における「13年」は今日始まります。すでにユーザーの方、まだこれからというユーザーの方、全ての方にとって良い「ArchiCAD 13年」となりますように。

2009年10月13日火曜日

Build Live Tokyoが終わって感じたこと

本当に興奮する結果でした!3つのプロジェクト、3つのプレゼン、意見の分かれる審査員。しかし、選ばれるベストプロジェクト賞は一組です。個人的にも納得でしたが、審査員はテクノロジーとデザインのバランスが一番とれていたプロジェクトを選択しました。ただ、他のどのチームが「ベストプロジェクト賞」に選ばれたとしてもおかしくはなかったでしょう。最終審査に残ったどのチームも完成度の高いBIM利用とデザイン性を表現していたと思います。

もちろん改善できる面もいろいろあります。例えば、もっと沢山の参加者(建築設計事務所の参加がなかった)がいればイベントとしてもさらに盛り上がったと思います それには少し軽めの形のコンペが必要でしょう(少なくとも前後含め48時間を超えないようなもの)。また、イベントは一年に一回で十分かもしれません。いずれにせよ、重要なのは、再びBIMが大きく前進したということです。大規模な企業もBIMを日常的に使い始め、結果として生産性の向上が証明されたのです。

ArchiCADユーザーによる今回の結果は、弊社製品に対する関心の高まりが単なる偶然ではない事を再度証明しました。最終選考に残った3つのチームの内の2チームArchiCADを使用しており、他の2つの賞を受賞したArchiCADユーザーについても同様に誇りに感じています。BIMテクノロジー賞はスカンクワークスとすとりーむが受賞し、環境設計賞はチーム48が受賞したのです。また、弊社のOEM製品であるRIKCADがファイナリストチームにより活用されていることも嬉しく感じました。今回BLTでは建物と環境の間のより密接な関係に重点が置かれていました。建物内だけに限らず周辺環境を配慮したデザインを考える建築家にとって、RIKCADは非常に重要なツールとなるでしょう。

もう一つ興味深い点は、構造モデリング用ツールとして、スカンクワークスでは実績のあるTekla Structuresを使用しているのに対し、すとりーむはRevit Structureを使用していたことです。これはArchiCADがオープンプラットフォームであることを証明しています。この全ては弊社の方向性が正しいこと、そしてArchiCADの成功はユーザーの成功によってのみ精確に測られると言う事を示しています。

最後に、今回の受賞者の皆様、そしてこの素晴らしいイベントに参加された皆様に心よりお祝い申し上げます。

2009年9月30日水曜日

チームワーク 2:「期待」と「実現」

とあるプレゼンテーションの後、弊社のCEOに電話をしました。「プレゼンはどうだった?」と聞きくと、「申し分なし」との事。「今夜はグラフィソフトの人間であることを本当に誇りに感じたよ」と答えが返ってました。思った通りの答えでした。ただし、何事も実際に起こるまでは安心できません。マラソン選手は一番先頭を走っていても、ゴールでテープを切って初めて喜びを実感できるのと同じ心境です。

この話は今から5年半前に始まりました。20043月に発表されたLFRT (Large Firm Round Table)、米国の大手設計事務所70社からなるAIA主催の専門グループ)によるCAD/BIMベンダー当て公開文書では、モデルベースコラボレーションの基本条件が選定され、このシステムの導入が各社に要請されていました。驚く事に、この条件はその数週間前の社内会議で決定された弊社の考える方向性と非常によく似ていました。この公開文書はモデルベースコラボレーションの重要性を裏付けるものとなりました。この文書の公開前は計画の実行時期についてためらいがありましたが、すぐに実行に移す必要がある事に疑問の余地がなくなったのです。

しかし、この機能を搭載するには、まずArchiCADのコアプログラムを全体的に書き直す必要がありました。大規模な開発となる事が予想できました。ある意味で心臓手術のようなものでした。最初の段階では23人の開発者が通常のリリース計画とは別個に割り当てられ、数億に及ぶArchiCADのラインコードの奥深いところまでコーディング作業を進めていました。案の定、計画よりも作業量は拡大し延期され、新しいチームワーク機能は常に「次のバージョンの後で」と後回しされていました。私が2006年に退社したときには、この機能は実現しないだろうとさえ感じていました。退社後も元同僚とは連絡を取り合っていましたが、昨年「次のバージョンで」新しいチームワーク機能を発表すると聞いたときにはとても嬉しく思いました。このようなわけで、日本での復職について話合うため今年3月にグラフィソフト社を訪れた際、せっかくの機会ですからチームワーク機能のプレビューを見せてもらいました。

そして驚かされました。公開文書に書かれていた「全ての」要望が現実にかなえられていたのです!これは2004年に想像していたものを遥かに超えていました。もちろん、グラフィソフト社への復職への士気が高まったのは言うまでもありません。現在にいたるまで、チームワーク機能について積極的な意見が日本を含めた各国のユーザーから寄せられていています。しかし、旅路は家に帰るまで終わりません。今年6月には、LFRT2004年に要求したシステムを弊社が開発したことを伝える公式文書を送りました。その回答として、業界関係者で「BIMベンダーの日」を設定しBIMの主要プロバイダーを招待するので、各社のチームコラボレーション戦略をプレゼンして欲しい、との要望が返ってきました。LFTRは特定のベンダーに影響される事を懸念していたので、各社が戦略プレゼンを行えるようにグラフィソフト社の他にベントレー社、ゲーリーテクノロジーズ社、オートデスクも社を招待しました。

s先週、米国セイント・ルイスで、弊社のビクター・バルコニー社長自身が50名以上のCIOに対して2時間ほどの発表を行いました。その中で、弊社の戦略の焦点は「建築」であり、エンジニアリングソリューションの「主要製品」との連携、IFCをベースとした「オープン・システム」であることの重要性、業務連携におけるArchiCADの価値、およびIPD (Integrated Project Delivery)に関する方針について説明し、その全てとチームワーク2TW2)の関連性について説明しました。その後、TW2の実際のデモが円滑に行われ、それに続いて質問が投げかけられましたが、特に多かったのは「いつ実際に試すことができますか」というものでした。

もちろんこのプレゼンテーションは機密保持のもとに行われましたので、他社のプレゼンテーションに対する公式な見解はありません。しかし、イベントに参加した弊社マーケティングディレクターのアーコシュ・フェメテール氏から聞くところによれば「今日の主役」が誰であったかは明らかであったようです。これで、チームワーク機能が業界の「流れを変える」と確信できる十分な根拠となったのです。

もちろん、旅はまだ始まったばかりです。あと数週間すれば日本のお客様も新しいチームワーク機能の可能性や操作性をお試しいただくことができるでしょう。Get ready!